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「図書だより」音の世界-蓄音機-

世界で最初の音の記録は、1857年にフランスの印刷技師エドワード・レオン・スコット(1817~1879)の発明した「フォノトグラフ(Phonautograph)」でした。音の視覚化をはじまりとした技術の進歩は、その後の音楽界を大きく変えることになりました。

<フォノトグラフ(Phonautogragh)>

フランスの印刷技師レオン・スコットは、油煙のススを付けたシリンダーを回転させ、羊皮紙の振動版にシュラックで貼り付けたブタの硬毛を、シリンダーに当てて、木製で樽形のホーンへ向かって音声を発した。すると、振動版に付いた硬毛がススの上に波状の軌跡を作り、音が波形として記録されることを証明した。彼はそれをフォノトグラフ(Phonautograph)と名付けていた。


出典「図解 世界の蓄音機」
著:三浦玄樹
三玄社

スコットが録音した音の波形の再現はこちら
https://www.futilitycloset.com/2017/02/16/the-phonautograph/
(フランスの民謡「Au clair de la lune」です。)

1877年、アメリカのトーマス・アルバ・エジソン(Thomas Alva Edison:1847~1931)は「フォノグラフ」を発明しました。フォノグラフ(Phonograph)はギリシア語のPhone(音声)とgraph(書く)の二つの単語を合成したものです。

フォノグラフは「録音・再生」の2つの機能を持ち、シリンダー(Cylinder:円筒)を回転させながら深さの変化する音を記録します。

エジソンによる「ティン・フォイル・フォノグラフ」のスケッチ
出典「図説 世界の蓄音機」
三玄社

金属製シリンダーの表面に、連続した1本の溝がらせん状に刻まれていた。このシリンダーに錫箔(すずはく)を巻き付け、箔の下の溝をたどるように蓄音機の針を置く。エジソンや助手たちが振動版にむかって叫ぶと、音の振動が錫箔をシリンダーの溝の中に押し下げ、銀箔自体に新しい溝がに残った。この錫箔のへこみの深さは音が変わるたびに変化する。記録された溝の「床」に沿って深さが変化することから、これは高低録音と呼ばれるようになった。


出典「エジソン 電気の時代の幕を開ける」
著:ジーン・アデア
大月出版

エジソンの肉声です。光学的な技術によって音声が再現されました。
https://publicdomainreview.org/collection/edison-reading-mary-had-a-little-lamb-1927/
(メリーさんの羊を朗読しています。)

“Mary had a little lamb
Its fleece was white as snow;
And every where that Mary went,
The lamb was sure to go”

幼い頃に患った中耳炎によって高度な難聴になったエジソンは、蓄音機の振動波や針先に自分の指を押し当ててその振動を確認したといわれています。

1888年になるとドイツからの移民青年のエミール・ベルリナー(1851~1929)によって「グラモフォン(Gramophone)」が公開されました。エジソンの円筒シリンダーへの縦振動録音に対し「グラモフォン」は、平らなレコード盤に横振動録音するもので、シリンダーよりも録音時間が長く、安価でコンパクトに収納できるSPレコードが主流となりました。

「蓄音機」をアメリカ英語では「フォノグラフ(Phonograph)」、イギリス英語では「グラモフォン(Gramophone)」といいます。歴史的背景の違いが表れていますね。

<SPレコードの溝>
音の溝が左右方向に刻まれています。

出典「大人の科学マガジンVol.06」
学研

蓄音機が黎明期、技術者たちはより良い音を追求し、耳だけをたよりに改良を積み重ねてきました。SPレコードから流れる音は、電気信号にはない柔らかさと細やかさを持ち、その響きが醸し出す空気は聴衆をノスタルジックな世界へと誘います

<フランス・バラウト画「HIS MASTERS VOICE」>
出典「図解 世界の蓄音機」
三玄社

蓄音機の動力源は「スプリングモーター」と呼ばれるゼンマイです。クランクハンドルを回すことで力をためた「ゼンマイ」が、ほどけて元に戻ろうとする力によって外側の歯車のついた容器を回転させます。ゼンマイはオルゴールや、子どものおもちゃ、江戸時代に作られたからくり人形などにも使われています。

今回、蓄音機に関する多くの資料をご提供頂きました(株)学研プラス様および(株)シェルマン アートワークス様からのメールをご紹介します。

以前蓄音機を付録に付けた頃にはフォノトグラフの音源もエジソンの音源もありませんでした。今はこうして聞けるようになっています。
日本では、エジソンは最初の録音でメリーさんの羊を歌ったことになっていますが、詩の朗読だったこともわかります。「この技術はカリフォルニア大学ローレンス・バークレー国立研究所で議会図書館と協働で開発された」と書かれています。
こうやって後に明らかになっていく歴史があること、それを発見していくことも楽しいですね!


(株)学研プラス 大人の科学マガジン編集部

「大人の科学」についてのホームページはこちらhttps://otonanokagaku.net/

蓄音機とSPレコードは、その時代の音楽芸術だけでなく、背景にある歴史や異文化を知るきっかけにもなり得る物だと考えています。そして、音楽や音響について語る時、学術的なものとは別に、個人の主観的感覚の中に正解があると思っております。
蓄音機も含め、音楽全般的には感性のものなので、ある日、ある瞬間に何かしらの“ひっかかり”があって、昨日までの自分なら全く気に留めなかったものが、突然そこから開眼していくような気がしています。

(株)シェルマン アートワークス

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