図書室から「おすすめの本」4冊をご紹介します。
■しろがねの葉(千草 茜著)新潮社
まなうらに残るのは、あの輝きだけ。
闇に濾された静かな光。
銀だと、誰かが言う。
その銀を吸い上げ、月に瞬く葉。
わたしは幾度も手を伸ばす。
なにもわからぬままに。そうして、また闇から生まれ、闇へと還っていく。
戦国時代から江戸時代の石見銀山で働く人々を描いた時代小説です。「しろがねの葉」の「蛇の寝ござ」は金属を吸収して生育する植物で、鉱山資源探索の指標にもなります。この本に登場する「大久保十兵衛(長安)」は金銀山や山林の経営を掌握し、江戸幕府の創成期を支えた実在の人物です。徳川幕府にとって、鉱山からの金・銀・銅は年貢米と同じように重要な収入源で、石見銀山は江戸幕府成立後、幕府の直轄鉱山となりました。
農家を捨て、逃げる途中で両親とはぐれた主人公ウメは、稀代の山師喜兵衛に育てられます。女でありながらも喜兵衛の仕事に憧れ、鉱山で働くことを望みます。鉱山の開発に生涯をかけた山師と銀堀、そして時代に翻弄されながらも彼らに寄り添い生きぬいた女性の物語です。
第168回直木賞受賞作品です。
石見銀山世界遺産センターはこちら
https://ginzan.city.oda.lg.jp/highlights/take_over_heritage/
「大久保長安」の本も入荷予定です。
「論集 代官職大久保長安の研究」 (村上 直、馬場 憲一著) 揺籃社 「定本 大久保石見守長安」 (和泉 清司著) 揺籃社
■クララとお日様(カズオ・イシグロ著) 早川書房
AIロボットのクララと病弱な少女ジョジーの物語です。ジョジ―が友達(AF)として選んだクララは優秀な頭脳を持つ旧型ロボットで、「お日さま」をエネルギーとしています。
登場人物の背景には格差社会があり、AIを通して消費社会が浮彫になります。クララにとって「お日さま」は偉大な存在で、AIもまた“太陽に生かされている”という普遍的真理の中で、人類との共生が描かれています。子どもの描写にすぐれていると評されるカズオ・イシグロのAIの世界は、深い愛にあふれ、読者の心を温かく包んでくれます。 ノーベル文学賞受賞作家の作品です。
■汝、星のごとく(凪良 ゆう著) 講談社
海岸沿いを歩いていく中、向かいからふたり乗りの自転車が走ってくる。わたしと櫂が通った高校の制服だ。髪をなびかせ、笑い声を潮風に流して、横をとおりすぎていく。島のあちこちにあのころのわたしと櫂がいる。
人気作家、凪良ゆうの恋愛小説です。登場人物の青埜櫂と井上暁海は高校の同級生です。小説は、互いの人生が交互に、順繰りに展開していきます。2人は母の心の支えとなり、暮らしていますが、櫂はやがて故郷の島を離れて東京へ上京します。
プロの漫画家としてデビューする櫂は、著者の凪良ゆうの人生と重なります。櫂と暁海は大人になり、それぞれの人生を歩み始めます。夢を持って都会にでた櫂と、故郷を捨てきれず、現実社会で懸命に生きようとする暁海。2人の対照的な生活はやがて…。
この小説にはどこか世の中にうまく馴染めない人達が登場します。自分らしく生きるとは。静かで、切ない恋愛小説です。
■ハンチバック(市川沙央) 文藝春秋
博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いものが嫌いだ。壊れずに残って古びていくことに価値のあるものたちが嫌いなのだ。生きればいきるほど私の身体はいびつに壊れていく。死に向かって壊れるのではない。生きるために壊れる。生き抜いた時間の証として破壊されていく。そこが健常者のかかる重い死病とは決定的に違うし、多少の時間差があるだけで皆で一様に同じ壊れ方をしていく老化とも違う。
障害者の性を真正面から捉えた衝撃の作品です。主人公の井沢釈華は「ミュオピュラー・ミオパチー」という難病で、コタツ記事を書いて暮らしています。著者市川釈沙央を思わせる主人公の釈華が放つまっすぐな言葉に、私達の常識がいかにひとりよがりなものであるかを突き付けられます。市川沙央は芥川賞受賞会見で「怒りだけで書いた。復讐するつもりで書いた。」と語りました。真のバリアフリーとは…。
第169回 芥川賞受賞作品です。